「まこと」を尽くして働くことの大切さ
午前5時20分
煌々と輝く月を見上げながら
職場で朝を迎えた。
誰もいない事務所を開け
裏庭へと出た。
東の山から登り始めた朝日が
西の空のお月様を照らし
清々しい雲を優しいオレンジ色に染めた。
私は
相変わらずせかせかと働いていた。
2016年春に移転した事務所の裏庭は
3回目の夏を迎え憩いの場所として定着した。
木陰が欲しかった私の望みは
造園を営まれている一人のお客様によって
叶えて頂いたのである。
大きなモチの木は枝を広げ
容赦なく照り付ける太陽の光を遮り
涼し気な風を送ってくれるのであった。
せっせと造ったこの小さな庭で
多くのお客さまが
BBQを楽しみ仲間とのかけがえのない時間を
過ごしてくださるようになったのである。
私は
息抜きをしながらも
息の詰まるような忙しい日々を送っていた。
40年近く親しくして頂いている「香愛さん」は
相変わらず素敵な笑顔と
絶対他人をを傷つけることのない
優しい言葉かけで
弱い心の私を支え続けて下さるのであった。
私は
休日を取れずにいた。
当然家事が全くできなかった。
次女みいが全てを熟してくれるが
私の心は大きな穴が開いていた。
わが家の庭から
花が消え
床の間には生け花が活けられることも無くなり
玄関は四季折々の花を飾ることがなくなった。
家の横に求めた土地は雑草が生い茂り
畑の役目を果たさなくなってしまった。
主婦ではなくなった私の心には
大きな空洞ができていた。
仕事における役割は
増々重く私にのしかかってきているのである。
私は時々
心の奥深くに閉じ込めているつぶやきを
香愛さんに打ち明けて
こぼれる涙を指先で拭う。
家族より
仕事のお客様の事ばかりを優先にして
赤の他人のお世話ばかりに明け暮れて
私の人生は終わってしまうんでしょうか・・・・と
香愛さんは
まっすぐの心で
何の迷いもない気持ちで
私の倒れそうな心を支えて下さるのである。
「 貴女のしていることは
素晴らしい徳を積んでいるのよ。 」 と
私は仕事が楽しかった。
「魚釣り」を通して
沢山のお客さまが
楽しそうに遊びに来て下さる様子に触れるたびに
私はわくわくと働けるのであった。
思いガソリンを船に運び
熱い太陽の下で汚れた船を洗い
曲がりかけた腰や背中を思い労わりながらの仕事は
単純ではあるが
喜んできてくださるお客様の気持を考えると
心地良い達成感があった。
私は香愛さんから
「積小為大」という二宮尊徳が
唱えた言葉を学んだ。
「小を積んで大と成す」
小さなことを積んで
大きなものを作り出す・・・・
私の人生は余裕があるのかな?
小さなことを積み上げてばかりで
果たして大きなものへと届く時間があるのだろうか・・・
いろんな迷いを抱えながら
私に与えられた時間は
せかせかと過ぎて行くのである。
沢山の方たちの優しさに包まれながら・・・。