はやとの挑戦

パールじゅんこ

2023年12月23日 00:19


 旅人と
    我が名よばれん 
       初しぐれ

   =芭蕉=




 中秋の名月をめで  
 秋はゆっくりとしだいに深まっていった。
 


「おれ
  一人で外国に行ってこようかな・・」

真剣にはやとのつぶやきに耳を貸したのは
初時雨が降るころだった。

行き先をシンガポールに決定した。



      

高校生のはやとの夢をかなえるのは
冬休みしかない。

あまり時間がないため
急きょ 
旅行の準備を始めた。

希望に胸膨らませ
計画を実行しようとした矢先
大きな問題が
立ちはだかった。

     

17歳という年齢のはやとは
外国への一人旅が不可能だと
わかったのである。

18歳未満では
一人で飛行機に乗ることができない。
各国で
 親権控訴中に発生するこどもの略奪増加や
 国際的な子供の連れ去りなどに
対処するために設けられている条件である。

     

ただ・・・
これには
必要な書類をそろえれば
クリアできる。

が・・・

ほとんどの国のホテルが
18歳未満の一人での宿泊を
受け入れてくれないことがわかった。

チェックインの際
必ずパスポートを提示しなければ
ならなかったから
なんの手段もなかった。

じぃじ ばぁばが同行すれば済むことだが
それでは
はやとの一人旅への夢は
崩れてしまうのである。

そこで
一つだけ方法があった。
適任者がいることを思いついた。

 
団体行動が嫌いで
入国審査の時以外は
空港内でも決して同じ行動をとらないし
外国での観光には別行動ばかりする
はやとの母親 みい がいた。



ホテルで目が覚めたら
同室のみいは
いつも部屋に姿がなかった。
ホテルの周りを散歩に出かけ
朝食は決して
一緒にレストランにはいかない。
もちろん
夕食もひとり別行動をとる。

私たちがホテルを出発して
観光に出かけるときも
一人ホテルに残って
周りの街をぶらぶらと散策したり
スーパーで買い物を楽しんだり
近くの公園を散歩したり
ホテル内のスパやジムを活用したりして
過ごすのが好きだった。


お互いを干渉しないで
一人旅を行うことができる
素晴らしい適任者が
こんなに近くにいたのだ。

私は
はやととともに
やんわりと
機嫌を損なわないように
みいを説得した。

「・・・こういう事情で
はやとは一人で外国旅行ができないので
みいが付き合ってあげてね。」

「旅費はばぁばが出すからね。
 年金 貯まったからね。 」

        


本来あまり旅行にはいきたがらない
頑固なみいを
一回で説得できるはずないと思っていたら

「 あら。 ありがとう。 」
快い返事が返ってきた。

私は
はやとと顔を見合わせた。

      

こんなに簡単にみいを
誘えると思っていなかっただけに
心底ほっとした。


とんとん拍子に
旅行の準備が整った。

12月30日出発
福岡~韓国ソウル経由~シンガポール

1月3日
シンガポール~韓国ソウル経由~福岡

ホテルは
みいが一人で過ごしやすいように
近くに商店街や
公園があり
フィットネスセンターがある
「 ヨークホテル 」を予約した。

 

 出発まで
 1週間となった。


 はやとは
 スマホで 
 クルーズ船でのカウントダウンの
 チケットを手配したり
 日々楽しそうに 計画を練っている。

 
「 ばぁば
 計画立てるのって難しいね。」という
 言葉を添えながら。


      




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