摂食障害の娘と共に 祈り
祈る。
すーと差し出した右手に
左手をそっと添えて ・・・・
静かに心の底から祈った。
厳しかった舅の前で
優しかった姑に向かって
「 お義父さん お義母さん
みいが来ようとしたら追い返してください」と・・・祈る。
二人は仏壇から優しく微笑みかけた。
私は祈った。
みいの命を消さないために祈った。
ありとあらゆるものに向かって祈った。
たくさんの方の
「 祈ってますよ 」 「 大丈夫だよ 」という
応援を受けて私は祈った。
陽光は
やさしいベールでふんわりと梢を包み
眠っていたたくさんの新しい命に
ささやきかけている。
「 起きなさい 出番だよ。」 と
私も 祈った。
4月11日(水)
4月12日(木)
4月13日(金)
4月14日(土)
ピクリともしないみいの体に触れながら
「 みい 起きなさい。 」と呼びかけた。
暖かい気持ちを引き連れて
深い深い心の奥まで下りて行って
みいに呼びかけた。
「 起きなさい みい 」 と。
神様 ごめんなさい。
何回も 何回も
娘の人生のシナリオを書き直させて・・・。
手数をかけさせて・・・。
しかし
私は娘の手を離すわけにはいかないのです。
娘はやらなければならないことがあります。
私も娘に対してやり残していることがあります。
娘の手を
離しません。 決して!
みいはやらなければならない事があるはず。
その命を救おうと
医学という武器で懸命に闘ってくださった徳田先生に
報わなければならない。
私は親として娘に教えなければならない。
人の恩には報いなさい。
心底尽くしてくださった方の恩というものは
きっちり答えて返していきなさい。
「 徳田先生の努力を無駄にして
逝ってはだめよ みい !! 」
「 その恩を返すことは みいが元気になることだよ。」
みいは徳田先生の恩に報いるために
元気を取り戻し 生きていかなければならない。
私もやらなければならないことがある。
7年間という歳月
つらい思いを胸に秘め込んで
「HAYATOを父親のいない子にさせたくない」という
一心で耐えてきた娘を
私は母親として守ってやれなかった。
命までも捨ててしまいそうな娘を
こんな状態になるまで救ってやれなかった。
こんな状態になる前に
引き戻し守ってやるのが母親の役目であったはずなのに。
私はみいの苦しかった時間を
忘れさせるために
幸せで穏やかな時間を準備しているから
逝ってしまおうとしているみいの手を離すわけにはいかない。
みいとHAYATOの幸せな日々を
見守っていかなければならない。
神様がどんなに煩わしがっても
どんなに面倒でも
どんなに忙しかろうが
みいの人生のシナリオを書き続けてもらわなければ!
みいの人生にピリオドを打つのは今ではない。
みいの定命(じょうみょう)はこの時ではないはず!
どうか みいの命を消さないで・・と祈る。
私は引き下がるわけにはいかない。
そして
深い深い心の中にいるみいを
連れ戻さなければ・・・。
4月14日(土)
静かにみいは戻ってきた。
4日間が嘘のように
夢だったかのように
意識が戻ったみいが目を閉じたままで微笑んだ。
顔全体で
バツの悪そうに微笑んだ。
まるで悪さをした日に
私から叱られないように
笑ってごまかして帰ってきたかのように・・・。
目を閉じて
顔全体で笑った。
伸びをするかのように
両手を頭の上に伸ばし
目を閉じたままで顔いっぱいで笑った。
なんだろう
この穏やかな気分は・・・。
苦しかった4日間がいっぺんに吹っ飛んだ。
おかえり
みい
叱らないよ! 目をあけなさいよ。
いいや
思いっきり怒らなければ !
癖になったら困る !!
おかえり みい!
みいは 一人ぼっちじゃないよ
佐世保の街を 夕焼けがつつみ
太陽が
弓張岳に沈もうとしている。
飛行機雲は新しい希望をつなぎながら
太陽を追いかけていった。
穏やかに 4月14日(土)が終わった。