摂食障害の娘と共に ピンチ
抜き足 差し足 忍び足・・・。
私は音を立てないように気を配りながら
午前4時30分
家事を始める。
カーテンの外は
すでにあかつきの頃
抜き足 差し足 忍び足・・・・。
行住坐臥
私は息を潜めて
家中動き回って家事をこなす。
寝室の前の廊下を
洗面所 浴室 床の間 居間とを
主人 HAYATOの眠りを妨げないように
こそこそと。
午前6時前
ふろ掃除 洗濯物干し アイロンがけ
二つのお弁当 朝食の準備
HAYATOの幼稚園のお便りのチェック。
全てを終わらせカーテンを開ける。
窓の外はすっかり
あさけの頃を迎えている。
東の空には
太陽の光を浴び ほんのりとした朝焼け雲が流れていく。
ふと
庭の
ミニバラ 飛鳥乙女の花が
ぽつぽつと開き始めたのに気が付いた。
サッシを開けて庭に降りてみると
ケーンケーン クウウ・・クウウ チチチ
小鳥の鳴き声と共に
東の空から南の空に向かって
ゆっくりと雲が流れていく。
又 季節は巡る。
一刻一刻と満開の時を迎えようとしている
飛鳥乙女は
こいのぼりの季節の次のセレモニーを
我が家に運んでくれようとしている
我が家の東から南を通り西へと流れていく不老の元川で
ホタルが飛び交う季節が
間もなくやってくる。
自然界は
実に仲良く手を組んで
スクラム組んで
悠久の時を流されている。
毎年
飛鳥乙女が満開の時を迎え
庭のホタルブクロが何ともかわいらしい様を見せた時
我が家の周りは
沢山のホタルが飛び交う。
HAYATOと私達は
午後8時から午後9時まで
ホタルの乱舞する中で
夜遊びに耽る。
今はママになった
私の三人の娘たちがかつて楽しんだように・・・。
HAYATOが小さないとこたちと
洋服に おでこにくっつくホタルに大騒ぎする季節が
もうすぐやってくる。
今年もその光景の中に
娘みいの姿がある。
みいが痩せた体で
微笑みながらチビッコ達の後ろで
手を伸ばしてホタルをとらえている姿があるはず。
そこには
長女の姿も
長女婿の姿も
あるはず。
私達は夜遊びに耽る。
HAYATOたち三人の小さな男の子たちの声が
山間の小さな谷に響き渡る日が
間もなくやってくる。
その暗闇の中には
みいのすがたもある。
今までと
なんら変わることなく・・・。
みいの姿もある。
みんなの陽気に騒ぐ中
主人の懐中電灯を持ち
「 ヒラクチ(マムシ)に用心しろよ!」
という声が追いかけてくるはず。
ほ~~~ ほ~~~
ホタルこい!
こっちの水は あ~~~まいぞ~~~。
今年も家族そろってホタルの季節を迎える。
そこには
HAYATOのパパの姿がない・・・ が
次女みいは私の前から消えてしまうことは無かった。
やがて咲く満開の飛鳥乙女は
私の心に遅ればせながら「心の春」を運んできてくれる。
5月11日(金) 12日(土)
試験外泊をしたみいは
日増しに元気を取り戻し
記憶を呼び戻し始めた。
5月14日(月)
携帯電話に応対した。
か細い声だが 携帯電話に応対した。
更に
簡単なメールが帰ってきた。
苦しかった。
苦しかった。
人生最大のピンチだったね。 と主人と笑った。
本当に 苦しかった。
・・・ながかった・・・
しかし過去形にする事ができた・・・!。
良かった。 ほんとうに。