2015年10月17日 01:43
中秋の名月を愛でながら
決算処理のための残業を終わらせ家路を急ぎ・・・
潮風にそよぐススキの横をとおり
支払いのため銀行に出かけ・・・
私は一年で一番忙しい季節を過ごしていた。
季節の移り変わりを視界の中に納め肌に感じ
暦をめくっているというのに
山と積まれた雑務に追いまくられて
私は秋の入口に気づかなかった。
ちらちらと注ぐ陽射しが
日増しに儚さを増していく様を見乍ら暮らしているのに
私の心からは感受性が消えていた。
私は情緒を閉じ込め一心不乱で働いていた。
しかし
私は気が付いていたはずである。
東の風にのってやってくる葛の花の香りが
今年は届かなかったことを・・
夏の激しい陽ざしの中で
秋の始まりを運んでくる野山の香水は
私の細胞の奥深くに潜んでいる
幼いころの記憶を一気に大きく膨らませ
望郷の思いを引き起こしてくれるのであった。
風に運ばれてくる心地良い香りは
幼いころに過ごした故郷への思慕を掻き立てるのである。
姉のあとを追い椎の実を拾い集めたあの日
メジロを取る兄たちのあとを追い
ナンテンの木の下にそっとかがんだ冬の日のこと
川魚を釣る兄たちの横で
仲間外れにされたくなくて必死でミミズを掴んだ夏の日
遊びすぎてどっぷりと暮れた田舎道を
兄たちのあとを追いかけ必死で家路を急いだ秋の夕方
真っ暗な納屋の中のお化けが怖くて
杉木立の中の幽霊が怖くて
やぶの中のけものが怖くて
いつもいつも
必死で姉や二人の兄のあとをかけていた幼いころ。
尽きない思い出のシーンの中には
どこにも三つ違いの兄の姿があった。
別れは突然やってきた。
私は祈る時間も与えられなかった。
「 神さま にいを助けて。 」と
巡礼の地 四国で生まれ育った私なのに
神さまは
仏さまは
私ににいの為に祈る時間を与えてくれなかった。
三つ違いの兄は
63歳の誕生日を前に亡き父や母の下へと旅立ってしまった。
自らその命に終止符をうった。
神さまは私に祈る時間を与えなかった。