浮雲

玄関前の高い杉の木立のなかから

　　　ホー　ホケキョ・・。
　　　　　　ケキョ　ケキョ　。
　　　　　　　　　ホー　ホケキョ　


　　　　　　　　　　　　　　　　
　

テレビでは連日　大雪の報道ばかりが続いている。
なのに
九州の西の端っこでは
春の訪れを感じるようになった。

1月27日
なんだか暖かい空気に包まれた朝
登園準備のととのった孫と玄関先で
顔を見合わせた。

　「　あっ　ホーホケキョ　って言った！　」

　　孫の声が弾んだ！

安堵の気持ちが湧き上がった。
春になるんだ・・・。
やっと
苦しみから解放できるかな・・・。


　　　私は
　　　この開放感を味わうと同時に
　　　脳裏に
　　　「ドメスティック・バイオレンス（ＤＶ）」という言葉が浮かんできた。

　　　なぜ
　　　今　ここにきて
　　　こんな言葉が浮かんできたのかわからない。

　　　「　ドメスティック・バイオレンス　」

　　　もしかしたら
　　　娘はＤＶの被害者となっていたのではなかろうか。

　　　婿は
　　　昨年末　私の抗議の電話に答えた。
　　　浮気を詰られて開き直り応答した。
　　　「　みいは　どうして帰ってこないんですか。
　　　　　どうして　実家にばかりいるんですか？

　　　　　僕は　何も悪いことはしていません。

　　　　　暴力も振るっていません。」

　　　言葉には出さなかったが

　　　　　浮気をしているのも
　　　　　みいが悪いからです。・・・・と言っているように
　　　　　感じられた。


　　　　　みいが悪い・・・

　　　　　みいが悪い・・・

　　　　　ぼくは悪くない！


　　この言葉は常にいつもいつも
　　婿が口にしていた言葉である。

　　人当りが良い婿に
　　私は　婿に合わせられない娘を
　　私の育て方が悪くて
　　娘の結婚生活に問題が生じているのでは　　と信じていた。


　　チビが1歳にもならない頃から
　　大きな声でみいを罵る婿

　　後部座席で二人のやり取りを聞き泣き出す孫

　　1歳すぎの乳幼児の孫のチック

　　孫の前での口論をさけようと
　　口を閉ざす娘に
　　浴びせ続ける罵倒の言葉の数々

　　　　　貴様・・・・！

　　泣き叫ぶ孫
　　父親になつかなくなっていく孫
　　
　　怒らせないように
　　怒らせないように
　　気を使う娘の日々・・・。


　　ゴールデンウイーク
　　お盆休み
　　正月休み
　　1週間一緒に暮らすと体調を崩しボロボロになる娘


　　娘が作る食事は手直し。
　
　　手芸が好きな手先の器用な娘を無視して
　　自らミシンを買ってきて
　　一人何か縫い始める婿


　　親戚の集まりでは
　　いつも気がきかない悪者あつかいの娘

　　私が悪いんだろう・・・と自分を追い込む娘

　　全てにおいて自信を失った娘

　　何年も前から離婚を進める周りに同意はしても
　　行動を起こすことが出来なかった娘



私は　ここにきてふと立ち止まった。

娘には
心療内科の受診なんて必要ないんではないだろうか？


私は
摂食障害の娘の治療の事ばかりに気持ちが
傾いていたんではなかろうか。


「今日は　何してたの　？」
と聞くのが私の口癖になった。

　　「一日　早いよ。
　　まず　みんなが出かけたらごはんを食べて・・・

　　　　　　（　朝ごはん　食べているんだ　）

　　ちょっとストーブの前に座ったら
　　しらない間に30分くらい眠っているヨ　」

　　「　そうじして買い物に出かける　」

　　「　お昼からも
　　　　お昼ご飯食べてストーブの前に座ったら
　　　　１～2時間　眠っているヨ　」

　　　　　　（　休息をとっているんだ　）

　　「　団地まで行ってくるよ。
　　　　仏様に水を変えてやらないと気持ち悪い・・。」

　・・・・　　仏様　・・・・・
　婿が小学生の頃　離婚して妹を連れて出ていき
　苦労を重ね
　子宮がんで若い命を亡くした母親の仏壇を婿は世話をしている。

　この魂の入った仏壇を
　娘たちが世話することを　岡田さんは恐れ嫌がる。
　　

　　　　　　　　　　　　　　　　

　　親子どんぶりと野菜サラダと味噌汁
　　酒の肴に　湯かけクジラが並んだ夕食時
　　ご飯を食べようとしなかった娘が
　　自分の親子どんぶりを準備していた。

　　孫のお茶碗を使用しての小さなどんぶりだが
　　ごはんを口に運んでいた。


　娘の病気の背景について
　今一度
　じっくり考えてみる必要があるのではないだろうか。　
　
　ドメスティック・バイオレンス