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2012年02月18日

摂食障害の娘へ 愛車

私達はいつもの窓際の席に座った。

  あったかいおしぼりで一息ついている間に
  2品のお通しが運ばれてきた。

  いいタイミングで
  ポットと
  焼酎が届き
  私達主人と孫
  超零細企業の私が勤める会社の社長は
  牛鍋とお子様ランチを注文した。


カウンターのご主人の手で
新鮮なアジの刺身が出来上がるのが
私達の席から見える。
  かぶとトマトの酢の物
  レンコンのきんぴら 
小さなしゃれた器に盛られたお通しは
家庭の味がして美味しかった。

奥の厨房で
奥様とみいの幼馴染の若旦那の手で
料理が出来上がっている間に
カウンターから手渡しで
鯵の刺身が届いた。

間もなく
エビフライがメインのお子様ランチと
小さなうすいピンク色の土鍋が届いた。
   一人分づつ
  作られた牛鍋は
  半熟の卵がとてもおいしいが
  私や主人の口に入ったことは無い・・。
  いつも孫の皿へと横流し。

優しいピンク色の土鍋は料理を引き立てた。

家族同然の社長の大きな声と
くったくのない楽しい話題は
カウンターの中のご主人も交えて盛り上がる。
チビを自分の孫のようにかわいがり
チビの席はいつも社長の横にある。


半分以上食べ終わったころ
暗闇が包み始めたころ
娘の運転するスズキ ワゴンRが
駐車場にゆっくりと入ってきたのが
すりガラス越しに見えた。

  ゆっくりと
  斜めに入ってきたまま
  止まってしまった。

  「 おっ 来た来た・・・。

        ・・・・・・

      何やってるんだ?  あいつは・・・。」


  いつも朗らかな主人の声が
  のんきに
  店の中に響いた。

平日の午後7時
座敷には もう一組だけ
幼児連れの5人のお客さがいるだけだった。


  私は
  斜めに入ってきて
  ブレーキを踏み  
  バック体制をとったまま
  動かなくなったワゴンRを見た途端理解できた。


  「 ギヤチェンジが出来んとよ。
   
      固いから・・。

        行ってくるね 」

  「 なんでや・・・。」
      主人は信じられないように
      のんびり笑った。

 私の後について
 孫が慌てて靴をはいた。


こんこんと窓をたたきドアを開けた。
愛しいみいの手袋をした手の上に
私の手を添えて
一緒にギアをバックに入れた。

刺すように
冷たい風が
夕闇が包み始めた駐車場にふいてきた。

  レストランのドアの中から
  孫が呼んだ。
  
    「 ばあば おしっこ!」

車のドアを閉めると
ワゴンRはゆっくりとバックして
又 娘の困惑した気持ちが伝わってきた。

  バックに入れたギアを
  パーキングに戻すことが出来なかった。

再び娘の手を助けた。
  「 ワゴンRはチェンジが固いもんね。
      アイシスで来ればよかったのにね。」

ドアから顔を少し出して
  孫が呼んだ。
   
     「 ばあばぁ。 おしっこ 」


摂食障害の娘へ 愛車


 毎週 週末には
 私の職場の手伝いをしていた娘は
 体調を崩してからは
 外食をする時しか社長には会わなくなっていた。

   「 どうか!  調子は。」
 
 中学生のころからの付き合いなので
 親戚の叔父さんのようにふるまい
 みいもお気に入りの大人の一人である。


    座敷に上がろうとしたみいは
    足元がおぼつかなく
    倒れ込んだ。

    私はみいを抱えて
    座敷に座らせた。

  みいの戸惑いと悲しさが伝わってきた。

  メニューを開けなくてもわかっているが
  一応 みいはメニューを開き
  私も覗き込んだ。


  いつものように
  山芋グラタンを注文した。


  間もなく
  鉄板の上でジュージュー音を立てながら
  みいの幼馴染が
  山芋グラタンを運んできた。


  みいは
  大さじで半熟の卵と
  ネギのたくさんかかっている部分をとりわけ
  後はみんなに進めた。


  ゆっくりと
  ゆっくりと
  美味しそうに食べていた。

  今までのように
  顔を上げて冗談ばかり言う娘の姿が
  今日は見られなかった。

午後8時前。
私達は席をたった。

いつもなら
一足先に娘が帰りお風呂を整える。
私達は10キロ離れた社長の自宅に社長を送り
自宅に帰り着くのが習慣だが
今日は腰を上げる前に社長の声がご主人に向けられた。

  「 タクシー 呼んでヨ。」

  誰も 何も言わず
  それぞれ店を出た。

数分で到着したタクシーを見送り 
私達4人は 小さなワゴンRに乗り込んだ。





時折 雲の間から輝くような太陽が顔を出し
太陽の光の中を
輝きながら 牡丹雪の舞う冷たい一日が終わった。

輝く陽射しの中を舞って降りた雪は
冬の終わりを告げた。

  私は
  無理やりでも病院に連れていける日を
  指折り待っている。

  息を凝らして・・
  間もなく病院に強引に連れていける日がやってくる。




 ストーブの前で
 私はみいの体調を気づかった。

 テレビでは
 「 アバター 」が始まった。

 何回も観たロードショーだが
 綺麗な映像に家族で魅了された。
 みいの大好きな映画のひとつである。

 画面を堪能している家族の横で
 みいは目を閉じたまま
 咳にならない咳をした。
 苦しそうに。




 



Posted by パールじゅんこ at 06:53│Comments(0)
 
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えっちら おっちらと進む人生。
苦しいことも乗り越えたはず。
悲しいことも通り過ぎたはず。
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100%信じている私こと じゅんこです。


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