
2014年02月14日
「陽だまりの彼女」その②



「 陽だまりの彼女」
越谷オサム
中学1年の時に知り合った
「学年有数のバカ」だった真緒とは
中学3年になり浩介の転校により
音信不通になってしまった。
そのまま約12年の歳月が流れ
大人になった二人は
再び社会人となり
取引会社の社員同士として再開する。
中学1年の時
浩介のクラスに転校生「真緒」がやってきた。
分数も解らない
漢字の書き取りテストも0点
という真緒に浩介は勉強を教え
寄り添いあって中学時代を過ごした。

浩介の転校により別れ離れになった後に
真緒は自らの努力により高校生活を送り
名門女子大へと順調に進み
知的な 魅力ある有能な社会人になっていた。
魅力的に成長した真緒の
その過程を共に過ごせなかったことを
浩介は非常に悔やんだのである。
再会後
デートを重ねる「今」のふたりの会話と
その折の浩介自身の気持ち・・
中学時代の「過去」の思い出の中のふたり・・
非常にバランスよく交互して展開されていく
ストーリーは
浩介目線の物語で
終始一貫して真緒を思う浩介の気持ちで
展開されていった。
その純愛は
なんともあったかく心地良かった。

ころころと
愛くるしい真緒を
私自身も見詰めているような錯覚に陥り
グングンと
文章の中に引き込まれていった。
結婚生活の
現実味を帯びたふたりの新婚生活は
非常にほほえましく
映像を見ているかのように
手に取るように頭の中に流れ込んできた。
些細な出来事が二人の前に起こるが
大人として二人が歩み寄り
成長していく様子が
リズミカルにやさしく簡単な文章で
展開されていき
肩の力を抜き物語の中に引き込まれて
いくのである。
後半
真緒の体調不良に心を痛める浩介。
読者の私は
ふつうに平凡に
真緒の体が病魔に侵されているのだと心配した。
まさか
この物語が
ミステリー性を帯びたファンタジーとは知らず・・。

真緒は
ガンに侵されているのかな?
類い稀な難病を抱えていて余命がなく
浩介は若くして亡くなる真緒を看取るという
平凡なストーリーが展開されていくんだろう・・と
勝手に思い込んで
読み進めていった。
ところが
そうではなかった。
真緒の体調は日増しに悪くなるように見えた。
「あー つかれた。」と頻繁に呟く・・
ベットに抜け落ちる無数の頭髪・・
窓から差し込む日差しを浴びて眠りこける真緒・・
二人の幸福な生活に
なにか解らない暗い影が差し始めたのである。

浩介の
懸命な看病の末
二人には私たち多くの人々が築くような
平凡と言える生涯を送るものと思えた。
「陽だまりの彼女」は
その平凡な生涯の中の
初々しく輝かしい一瞬を
浩介の目線で綴られていると思えた。
私は
この物語がファンタジーと知らなかったからである。
朝日にさらされて
トマトのように鮮やかな赤に染まったカーテンが
まどろみから醒めると
ふんわりとしたベージュ色に戻っていた。
わずかな隙間から射し込む眩い光線と
シジュウカラの甲高い声が、
一日がとうに始まっていることを伝えている。
と 物語はホットな表現で綴られていく。
・・ 午前十一時。
真緒はすこぶる機嫌よく
ハミングをしながらテーブルいっぱいの
朝食を整えていた。
新婚生活の休日である。
二人が前夜に
甘く蜜のように肌を重ねたのは
十二分に想像がつく。
小説は 素敵な表現で
若い二人の朝を表現した。

食事を終えた後
真緒は朝刊を取りに部屋を出て
行くのである。
「おはようのキス 忘れていた。」
耳をくすぐるようないつもの声
頷いた僕の両肩に手を掛けて背のびし
真緒は短い口付けをした。
「 じゃあ、ね」
真緒は小刻みに手を振ると
軽やかな後取で玄関から出ていった。
そして そのまま
帰ってくることはなかった。

私は驚いた。
あんなに楽しく甘い生活が
こん風にあっけなく終結するなんて。
何が起こったのか驚いた。
物語は
ここまでは甘い純愛小説だが
ここからは ミステリーを帯びた
ファンタジーの世界が
展開されていくのである。

浩介の悲しみを・・
深い 深い 絶望ともいえる悲しみを
読者である私も共感する事となった。
私は
物語の中で
真緒に恋をし
真緒との甘い生活に
どっぷりと幸せ気分で浸っていたからである。

浩介の
悲しみ
落胆は
私の
悲しみとなった。
地球上にあふれている
ありとあらゆる人々の物語の中から「真緒」という
存在が消えてしまったのである。
「真緒」という存在を
真緒は消してしまった。
浩介の心の中だけに
その存在を残して
真緒のすべては消えてしまったのである。
真緒はすべてを消してしまったのだ。
真緒のすべて・・
そう
「真緒」という人間が生きたという足跡が
職場から
地域から
真緒を育てた里親の記憶からも
消えてしまったのである。
ただ
浩介と甘い生活を送った部屋の中には
真緒が使った物があふれていた。

浩介の
狂おしいほどの寂しさが
読者の私にも伝わり
一緒に涙がこぼれた。
真緒を忘れるために
浩介は狂おしい日々を
送らなければならなかった。

そんなある日
真緒を里子として育てた両親に偶然駅で出会う。
そこで
二人が「真緒」という猫を可愛がっていることを
知るのである。
それは
真緒が消えてしまったことに
納得のいかない浩介の
事件の解決へのカギとなったのだ。
その途端
浩介は謎を解放すのであった。
真緒との生活の秘密が解けたのである。
そこからは
再び
真緒との思い出を
その心の中に秘めて
浩介は新たに一歩を力強く踏み出すのである。

真緒の秘密・・・
それは 伏せておこう。
とにかく
浩介は 力強く 立ち直った。
私も
胸をなでおろして
浩介の後ろ姿にエールを送った。




私は
バックに一冊の文庫本を入れていた。
わずかな時間をつなぎ合わせて
読書を楽しんだ。
私は
この可愛いイラストのカバーを付けた
「陽だまりの彼女」に
夢中になった。
主人の話しかけも無視して
HAYATOの存在も知らん顔して
みいが行う家事の手伝いもボイコットして
小刻みな時間を
小説の世界に入り込んだ。
とても
可愛らしいその文章に
気持ちを移入していった。





私は
平凡な 日々を 送っている。
私は
幸せな 日々を 送っている。
神様は我が家に
穏やかな 時間を与えてくれた。
もしかしたら
束の間・・ なのかもしれないが。

Posted by パールじゅんこ at 08:08│Comments(0)