
2015年12月04日
狐の嫁入り
北西の風が事務所の窓をたたいた。
孫くんと主人と社長がピーラーで皮をむいた吊るし柿が
窓の外で激しく揺れた。
雨と共に海の色が変わり
平戸島から吹いてくる風は穏やかな海を変貌させ
白波が立ち
激しく事務所前の小船の桟橋を揺らした。
深い悲しみを伴ったような海の色に
私は戸惑った。
それは
激しいというよりも
深い深い苦しみをじっとこらえているような重い色の海だった。
春、夏、秋と
巡ってきた季節の中では見たことのないような海の色に
私は冬の到来をまざまざと感じさせられた。
急に降り始めた雨で
外仕事を中断せざるを得なかった。
突然降りだした雨は容赦なく髪を濡らし
薄いジャンバーの肩からは雨のしずくが流れ落ちた。
事務所の中で燃え盛る石油ストーブの前に立ち
手をかざし暖をとった。
ストーブの上のやかんはちんちんと湯が沸いていた。
ちんちん・・・
音はしていないはずだが
私はちんちんという音がしているように感じられた。
ちんちん・・・
「 冬が来ましたね。 」
私より少し遅れて事務所に入ってきた社長に向かって
私は呟いた。
来年の夏には70歳を迎える社長は
体の老いを訴えながら
意気揚々と働いていた。
「 寝とっても 冬は来るとたい。 」
「 そうですね。」
「 あんたが泣こうと喚こうと
冬の次は 春が来るったい。
春が来て 夏が来て 又冬になるとたい! 」
「 そうですね。 」
ごもっとも。
心の底から そう思った。
ごもっとも! と。
私は
笑ったり 泣いたり 怒ったり
悩んだり 苦しんだり 喜んだり
一日一日と年を取っていた。
私の感情などお構いなく季節は巡っている。
激しかった雨は通り過ぎ
吹きつけていた風は止み
怒り狂っていた海は穏やかになった。
窓の外にくっきりと虹がかかった。
手を伸ばせば届くようなすぐ近くに虹がかかった。
駆けていけば虹の出発地点に立つことが出来るほど
間近に小さな綺麗な虹がかかった。
私はカメラを持って外に出た。
すぐそばの目の前の小さな虹の上に
うっすらと遠くにもう一本の虹がかかっていた。

幸せ気分で見とれている前で
虹はうっすらと消えかかり始めた。
私は事務所に戻り
もう一度ストーブの前で暖を取った。
右の手首がかゆくてたまらなかった。
1週間ほど前
作業場の片付けを行った際に
シートをはぐると
錆びたチエーンの上で沢山の蜂が群がっていた。
蜂仲間が群がって暖を取っているその姿を愛しく感じ
思わずスマホのシャッターを押した。

そして
全く別の場所のシートをはぐり
そのシートを片付けようとしたとき
手首にじか~~~とした痛みを感じたのである。
何の痛みかな? と思いながらシートを運ぶと
ぽろっと 一匹の蜂が足元に落ちたのである。
鈍い私はその時に初めて蜂に刺されたこが解った。
初めて蜂に刺された私は
何回も何回も自身に言い聞かせた。
( 私は蜂には負けない! )と。
( 蜂なんかには負けてたまるものか! )と。
右手首は赤くなっただけで腫れることはなかった。
( よしよし )と自分に暗示をかけて仕事を続けた。
仕事が終わり私は蜂に刺されたことをみんなに告げた。
私より10歳若いMASAやんは
母親と痴呆の入った父親の三人暮しの親孝行息子であり
非常に物知りである。
そのMASAやんが言った。
「今夜は 絶対刺されたところを水に濡らさんごと。
蜂もムカデも一緒!
水に濡らさんかったら 大したことにはならんから 」と。
私は家事は娘がしているので大丈夫だと考えた。
そして
うっかり忘れて
じゃぶじゃぶと風呂に入ってしまった。
その数日後
蜂に刺された手首がかゆみを伴い始めた。
私はうかつだったことを後悔した。
が、後の祭りだった。
相変わらず
身に染みて痛い目に合わないと解らない私である。

小さな出来事に一喜一憂しながら
あたふたと過ごしている私の上を
秋は駆け足で過ぎて行ってしまった。

紅葉を楽しむことも無いままに冬がやってきたことに
がっかりしていた時
思いがけず嬉しい電話がはいったのである。
「 今年は いつものように綺麗ではないが
庭の紅葉が何とか楽しめそうなのでいらっしゃいませんか?
お寿司でもつくってお待ちしていますよ。」
同じ町内のMORIさまの奥さまからの電話だった。

孫くんと主人と社長がピーラーで皮をむいた吊るし柿が
窓の外で激しく揺れた。
雨と共に海の色が変わり
平戸島から吹いてくる風は穏やかな海を変貌させ
白波が立ち
激しく事務所前の小船の桟橋を揺らした。
深い悲しみを伴ったような海の色に
私は戸惑った。
それは
激しいというよりも
深い深い苦しみをじっとこらえているような重い色の海だった。
春、夏、秋と
巡ってきた季節の中では見たことのないような海の色に
私は冬の到来をまざまざと感じさせられた。
急に降り始めた雨で
外仕事を中断せざるを得なかった。
突然降りだした雨は容赦なく髪を濡らし
薄いジャンバーの肩からは雨のしずくが流れ落ちた。
事務所の中で燃え盛る石油ストーブの前に立ち
手をかざし暖をとった。
ストーブの上のやかんはちんちんと湯が沸いていた。
ちんちん・・・
音はしていないはずだが
私はちんちんという音がしているように感じられた。
ちんちん・・・
「 冬が来ましたね。 」
私より少し遅れて事務所に入ってきた社長に向かって
私は呟いた。
来年の夏には70歳を迎える社長は
体の老いを訴えながら
意気揚々と働いていた。
「 寝とっても 冬は来るとたい。 」
「 そうですね。」
「 あんたが泣こうと喚こうと
冬の次は 春が来るったい。
春が来て 夏が来て 又冬になるとたい! 」
「 そうですね。 」
ごもっとも。
心の底から そう思った。
ごもっとも! と。
私は
笑ったり 泣いたり 怒ったり
悩んだり 苦しんだり 喜んだり
一日一日と年を取っていた。
私の感情などお構いなく季節は巡っている。
激しかった雨は通り過ぎ
吹きつけていた風は止み
怒り狂っていた海は穏やかになった。
窓の外にくっきりと虹がかかった。
手を伸ばせば届くようなすぐ近くに虹がかかった。
駆けていけば虹の出発地点に立つことが出来るほど
間近に小さな綺麗な虹がかかった。
私はカメラを持って外に出た。
すぐそばの目の前の小さな虹の上に
うっすらと遠くにもう一本の虹がかかっていた。

幸せ気分で見とれている前で
虹はうっすらと消えかかり始めた。
私は事務所に戻り
もう一度ストーブの前で暖を取った。
右の手首がかゆくてたまらなかった。
1週間ほど前
作業場の片付けを行った際に
シートをはぐると
錆びたチエーンの上で沢山の蜂が群がっていた。
蜂仲間が群がって暖を取っているその姿を愛しく感じ
思わずスマホのシャッターを押した。

そして
全く別の場所のシートをはぐり
そのシートを片付けようとしたとき
手首にじか~~~とした痛みを感じたのである。
何の痛みかな? と思いながらシートを運ぶと
ぽろっと 一匹の蜂が足元に落ちたのである。
鈍い私はその時に初めて蜂に刺されたこが解った。
初めて蜂に刺された私は
何回も何回も自身に言い聞かせた。
( 私は蜂には負けない! )と。
( 蜂なんかには負けてたまるものか! )と。
右手首は赤くなっただけで腫れることはなかった。
( よしよし )と自分に暗示をかけて仕事を続けた。
仕事が終わり私は蜂に刺されたことをみんなに告げた。
私より10歳若いMASAやんは
母親と痴呆の入った父親の三人暮しの親孝行息子であり
非常に物知りである。
そのMASAやんが言った。
「今夜は 絶対刺されたところを水に濡らさんごと。
蜂もムカデも一緒!
水に濡らさんかったら 大したことにはならんから 」と。
私は家事は娘がしているので大丈夫だと考えた。
そして
うっかり忘れて
じゃぶじゃぶと風呂に入ってしまった。
その数日後
蜂に刺された手首がかゆみを伴い始めた。
私はうかつだったことを後悔した。
が、後の祭りだった。
相変わらず
身に染みて痛い目に合わないと解らない私である。

小さな出来事に一喜一憂しながら
あたふたと過ごしている私の上を
秋は駆け足で過ぎて行ってしまった。

紅葉を楽しむことも無いままに冬がやってきたことに
がっかりしていた時
思いがけず嬉しい電話がはいったのである。
「 今年は いつものように綺麗ではないが
庭の紅葉が何とか楽しめそうなのでいらっしゃいませんか?
お寿司でもつくってお待ちしていますよ。」
同じ町内のMORIさまの奥さまからの電話だった。

Posted by パールじゅんこ at 23:19│Comments(0)