浮雲

生きていることの喜びが溢れた
春の一日が終わり
孫くんと一緒にベットに入り
心地良くすーと睡魔が襲ってきた時だった。

大きくゆら～～～　　ゆら～～～と家が揺れた。

熊本　益城町を地震が襲った時だった。

家族中のスマホが一斉に鳴りだして
娘が
居間のドアをあけて
入浴中の主人や
孫くんと共に寝室にいる私に大きな声で
「地震よ～～！」と声をかけた。
町内の防災無線から地震速報が鳴り響いた。

翌日の真夜中にも
突然　ガチャガッチャとガラスのなるような音がして
大きく家が揺さぶられた。
私は夢の中から引き戻されて
孫くんを抱きしめた。
家中スマホが鳴り響いた。
田舎町の静かな闇の中を防災無線が鳴り渡った。
再び静寂が町を包んだころ眠りに落ち込んだ。


連日　熊本地方の地震災害の様子が報道されている。
誰もが予想していなかった事態のはずである。

しかし
同じ陸続きの九州の西の端っこに住む私は
自分の町が・・・
自分の身の上に・・・
災害が襲ってくるなんて思えなかった。
だが決して他人ごとではないはずなのに。

不幸にして命を失った方々は
直前までその心や魂をどんな状態で保っていたのだろうか。

新しい希望溢れる生活が始まり
幸せな団欒のあとで豊かな時間が流れていた方や
大きな問題を抱えその打開策を考えていた人や
些細な喧嘩に心痛め謝罪の必要性を考えていた人など
様々な思いを明日へと繋いでいたはずである。
突然絶たれたその思いはどこへ行ってしまったのだろうか。

誰をも責めることの出来ない自然災害の下で
沢山の方々が
深い苦しみの中へ追い込まれているはずである。

私には
豊かな自然に恵まれた阿蘇の町々を襲った自然災害が
これ以上の被害を出さないようにと祈るしか
手を差し伸べてあげることが出来ないでいる。


地震の最中にも睡魔を立つことが出来なかったのに
今夜は目が冴えてしまった。
思い切ってパソコンのスイッチをいれた。

窓の外からは
　　　ケロケロ　　ケロロロ・・　と
途切れ途切れにカエルの声が聞こえてくる。

静かな寝息をたてて寝ている孫くんや主人
物音ひとつ立てずに寝ている二階の娘を思う時
幸せな一日を終えることが出来その思いを
新たに流れてくる時間につなぐことが出来ていることの
幸せの重さを抱きしめずにはおれない。

何時自分の身に降りかかってくるか解らない災害の前で
宝物である家族と過ごす平凡な時間の一瞬一瞬を優しく・・
交わる人々にいつも笑顔を絶やさずに・・
「今　この時」を大切に
心をこめて生きて行かなければならないと思わせられている。


土曜日から日曜日にかけて
自然の芽生えを潤す春の雨が激しく九州地方を襲った。
激しい雨が窓ガラスをたたきつけ
強い風が一晩中家を揺すった週末であった。
不安な夜を過ごす被災地の方々に取って
豊かな恵みを約束するはずの穀雨が
こんなに無情に思える夜は無かったはずである。

被災地の方々が
どうか一日も早く平穏な日々を取り戻されますように。
阿蘇の山々に平和な時間が流れますように。