2017年06月06日
夏木 「センダン」
勤務時間外にコツコツ せっせと造った小さな庭に
花が咲き
芝生が育ち
小鳥がやってきた。
庭に向かって伸びた事務所の屋根裏の角パイプの隙間で
雀のひなが生まれ
連日 えさを運ぶ親鳥に向かってさえずる
心地良い鳴き声が
事務仕事に向かう私の耳をくすぐった。
窓から流れ込んでくる潮風は
机に向かう私の背中を優しく労わってくれた。
私はこの上なく幸せを感じた。
生きていることの幸せが心いっぱい広がった。
四季は夏を迎え
二十四の気は立夏を迎え
山々は青々とした緑に覆われ
日増しに勢いを増していった。
風に乗って鳥は羽ばたき
こいのぼりは爽やかな風の中を舞った。
そして
季節は二十四節気の立夏を送り
小満(しょうまん)を迎えた。
草木も花々も鳥も虫も自然界のすべてが
活き活きと輝き躍動感が溢れた。
枝を広げた大きな木の下は
爽やかな風が吹き渡り
日増しに強くなっていく陽射しを遮り
心地良いオアシスをつくっていた。
私は
丹精込めて造った会社の庭にオアシスが欲しくなった。
小さな苗では
私の人生に間に合わないように思えた。
ある程度育った木を植えなければならない。
絶えず潮風に吹かれるこの場所では
塩害に強い木となると限られてくるはずである。
私の欲求を満たしてくれる木を私は探した。
この地で育つ身近な木に心奪われた。
20年という歳月を過ごした会社の裏庭で
いつの頃からか自生し
あっという間に
どの木よりも大きくなったこの木をおいて
一年前の冬
隣接地へと事務所を移転したのだった。
空き地となった横の土地の隅っこで
潮風を受け グングンと成長し続けている
優し気なこの木に
私の心は奪われていた。
気になりだすと
いたるところで大木化した同じ木が目に留まった。
通勤途中の道端でも
大きく枝を広げ
爽やかな風を受けて
柔軟な枝がさやさやと揺れているこの大木が
気になって仕方なかった。
私は毎日この枝の下を通り
21年という歳月を会社へと向かっている。
しかし
この木がこんな大木になっていくのに
今まで気をとめることがなかった。
そういえば
我が家の玄関前の山肌の竹林の前でも
同じ木が年々大木に成長し続けている。
5月中旬
枝先いっぱいにうす紫の花が咲き
木は一気に清楚さを増した
季節は立ち止まることなく
二十四節気の芒種を迎えた。
容赦なく陽射しが照り付ける日々が続いた。
私はドキドキと胸躍らせて
この木の下で木漏れ日を楽しんでみた。
ちらちらと揺れる木漏れ日は
素敵なお日様のシャワーのように思われた。
「センダン 」という名を持つこの夏木は
30mもの大木となるらしい。
我が家の玄関前で大きく枝を広げるセンダンの木が
庭に伸びているお迎えの奥様は言った。
「 花はいっぱい落ちるし
葉っぱは一杯散るしこの木は 大変!
切ろうと思うが大きすぎて手に負えない。」と
眉間にしわを寄せた。
私を虜にしたこの「センダン」の木は
私の創ろうとしている
小さなん庭のオアシスには悔いていないんだ・・。
と
私ののぼせ上った気分はしぼんでしまった。
私は再び 庭に木陰を与えてくれる
塩害に強い木を探している。
遊漁船業を営んでいる我が社に
足を運んでくれるお客様に
オアシスの出来た庭で
心地良い潮風に吹かれながら
お茶を進めてあげたい
というささやかな夢を叶えるために。